れとろげ。

ファンタジー風創作小説『ようこそ麒麟亭へ』

2003年01月01日

青ひげ公爵

性愛におけるサディズムは、突き詰めると破滅衝動に結びつく。
それはなぜかと言うと、相手が最も幸福なときに、
相手の最も嫌がること、傷つくことを的確に選択してしまうからだ。

ほとんどの場合それは、関係そのものの破壊。
殺してしまった鳥からは、もう歌は聴けない。

お互い、ちょっとニブイぐらいが、たぶん一番ちょうどいいのだ。
やれムチだロウソクだと、肉体的な痛みのやりとりで喜んでいられるのは
むしろソフトな部類ではないかと思う。

感性の鋭いサディストは、そうして相手を失うことを繰り返し、
多くの思想家や作家がそうであったように、
その衝動を自分自身や世界全体に向けざるを得なくなって破滅に至るのだろう。



しかしそれでもなお、“青ひげ”に共感してしまうと言ったら、眉をひそめられるだろうか。

「青ひげ」とは、ジル・ド・レがモデルだと言われるヨーロッパの民間伝承。

  昔あるところに、青ひげと呼ばれる貴族が住んでいた。
  彼はこれまで6度も結婚を繰り返していたが、花嫁はしばらくするとみな姿を消してしまうのだった。
  ある日、村の地主の娘が7人目の妻に選ばれる。
  彼女に対して青ひげは優しく接していたが、用事でしばらく城を留守にせねばならなくなり、
  彼女に城中の鍵を預けて旅に出た。
  「地下の小部屋にだけは決して入ってはいけない」と固く言い残して。

  数日が過ぎ、彼女はとうとう誘惑に耐えきれず地下室の扉を開けてしまう。
  血に染まったその室内にあったのは、6人の女たちの死骸だった。

  やがて帰ってきた青ひげは、彼女が禁を破ったことを知り、彼女も手にかけようとする。



鍵を渡しておきながら、「絶対に入ってはいけない」と言う。
この物語を恋愛心理の面から分析する場合、この矛盾した言動は
「相手を試している」と解釈されることが多い。

だが本当にそれだけだろうか。
ただ相手が約束を守るかどうか試すだけなら、もっとリスクの低い物事を選ぶだろう。
約束を破り秘密を知ったという理由で殺さねばならなくなるぐらいなら、
最初から鍵など渡さなければ済むだけの話である。

思い通りにならないから殺す。裏切ったから殺す。
そんなものは単なるワガママな亭主関白でしかないのであって、サディストの本質とはほど遠い。

サディストであるからには、やはり、深く愛しているからこそ殺すのだ。
決して怒りを込めてではなく、情愛を込めて殺すのだ。

(純粋なサディストが他人を嫌ったり恨んだりするときに取る行動は、
 完全に壁を作り目の前から消え去ることである。
 彼にとって嗜虐的行動はすべて愛情表現であり、
 嫌いな人間はもはやそれを向けるに値しないからだ。)


この物語の地下室とはすなわち、彼自身の心ではないだろうか。

わざわざ鍵を渡すからには、
彼も本当は部屋を開けてほしいと思っている。
中を覗いて彼の闇を知ってほしいと望んでいる。

そして、出来ることなら――その闇すらも含めて愛されたいと。

そしてそれが叶えられなかったとき、
彼はこの愛も悲劇的な形でしか成就しないことを悟るのだ。
彼の心を知り、彼を拒絶し嫌悪する彼女を、それでも彼は愛してしまっているのだから。

最後に彼は、新妻の兄たちという、“外界の常識”の象徴によって殺されるわけだが、
それが何とも無粋な終わり方に思えてならない。
どうせなら愛する花嫁の手にかかって死ぬほうが、美しい結末だったろうに。

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Posted by 白川嘘一郎 at 00:00 │屋根裏のアーカイブ