GameBridge

2009年09月04日

『イース』の思い出





◆ 黒歴史と呼ばないで

ゲームサイド20号のイース特集を読み、正直言って失望した。
企画の段階からうすうす予測はしていたが、
『イース』の歴史を語るに欠かせない2つの要素が完全に無視されているではないか。
これは黙って見過ごすわけにもいくまい。

……いやまぁ、雑誌に載せるといろいろ面倒そうだったんで、
最初からブログでコッソリやってやろうと企んでたんだけどね。



まずは何と言っても、これ。
『ミス・リリア』こと杉本理恵ちゃんだ!





1989年、『イースII』のヒロイン・リリアのイメージガールを探す「ミス・リリア・コンテスト」という企画で
1873名の中から選ばれた杉本理恵は、当時15歳。

既存のアイドルを題材にしたゲームソフトはすでにいくつかあったが、
ゲームのイメージガールに新たにアイドルを発掘・起用するというキャンペーンとしては先駆的存在であった。

(前年、『夢幻戦士ヴァリス』のヒロイン優子のイメージガールとして、後の女優・宮本裕子が選ばれているが、
彼女はすでに20歳で劇団に所属していたことを考えると、
純粋なアイドル誕生としてはこの「ミス・リリア」が初めてと言えるかもしれない。
 ただし杉本理恵のほうも、奈良県の学校教育ビデオに出演したりしていて、授業で見せられて驚いた記憶があるので、実はそれ以前に何らかの活動があった上での出来レースだった可能性も否めない)


そんな杉本理恵の芸能活動のメインと言えば、
キングレコードのファルコムレーベルよりリリースされたCD。

『LILIA』 『KRELIA』 『Celceta』 『Heal Ring』とイースにちなんだタイトルを冠したアルバムに収録されているのは、
ゲーム音楽の中でも屈指の名曲と、現在でも高い評価を得ている『イース』のBGMに
強引にアイドルソング調の歌詞を乗っけて杉本理恵が歌うというものだった。


今であれば「原曲レイプ」とか言われてネットで炎上しそうな展開。
杉本理恵の歌唱力も、下手とは言わないが特別上手くもないというレベルであったが、
なまじ元曲が素晴らしすぎるだけに、これが意外と聴けて耳に残ってしまう。

一度でも聴いてしまうと、それ以降は『イース』をプレイするたびに、メロディに合わせて


「♪ 陽射しの~模様の~浜辺のパラソル~」 とか

「♪ Sunshine~ 12色の~水彩の季節~」

「♪ ねぇ どうするの~? 胸騒ぎ どうするの~?」



という具合に、ゲーム本編のストーリーや雰囲気など完全に無視して
杉本理恵の歌声が脳裏で再生されてしまうのである。

20年近くたった今でも、何も見ずにこうやって歌詞が書けてしまうということからも
この呪縛の強力さがおわかりいただけるだろうか。


なお、その後の杉本理恵は、バラエティ番組や映画に出演したりと順調にステップアップを重ねていったが、
アイドル不遇、バンドブームの時代のあおりを受けて、だんだん露出が減っていきやがて引退。

現在は、ブログ上でむやみにセンチメンタルなポエムや、足の指の爪が剥がれた話などを書き綴る、
ちょっと心配な人になってしまわれました。



◆ 愛しているから、壊したい


「ミス・リリア」として活動していたころの杉本理恵は、
角川書店のパソコンゲーム誌「コンプティーク」誌上で、フォト&エッセイを連載していたが、
そのコンプティークから生まれたのが、現在のオタク向け漫画誌の元祖とも言える「月刊コミックコンプ」。


そこに連載されていたのが、羽衣翔という漫画家の描くコミック版『イース』だった。





当時のいわゆる同人的なタッチで、アドルも原作のイメージとは大きく変わり
長髪でオレ様っぽいキャラになっていたり、
他にも登場キャラの役どころを入れ替えたり
かなり奔放なアレンジで、ファンの間では物議をかもしていた。

しかし原作に思い入れのない作者が適当に描いていたのかと言うと、決してそうではなく、
やたら細かく描きこまれた装備やアイテムのディティールと言い、
同じファルコムのソーサリアンシリーズなどのネタを盛り込んでみたり、
原作からは逸脱しつつも、独自の解釈ながらちゃんと最後まで話をまとめあげたりと、
むしろ愛情が行き過ぎた上でのオリジナル・アレンジと言えるだろう。

(当時良く批判されていたのが、初登場時のアドルの髪がトレードマークの赤毛ではなく金髪で、
後にストーリー上のイベントでいきなり赤くなったりするところだが、
 これも実は、PC88版の最初期のイラストでは濃い茶髪だったアドルが、ゲーム中ではいきなり赤毛になっているというネタをインスパイアした結果なのかもしれない。)


この作品も、連載半ばで例の角川のお家騒動に巻き込まれ、後半は電撃レーベルから刊行されている。
雑誌移籍の流れで読むのをやめてしまった読者も多かったろうし、そういう意味でも不遇であったが、
裏を返せばそれでも連載を全うできるほど固定ファンが存在したということでもある。


現在では、むしろ原作のストーリーを忠実になぞるより、
漫画ならではのアレンジを積極的に行うことのほうが多かったりするが、
何しろそもそも“ゲームのコミカライズ”というものがまだほとんどなかった時代にそれをやってのけ、
攻略本のオマケレベルではなく、ゲーム原作の漫画が、作品的にも商業的にも成り立つのだということを示した功績は、想像以上に大きいのではないかと思う。

そんな作者だが、今も同人界で活躍を続けている模様。




杉本理恵と羽衣翔。
原作『イース』の完成度があまりに高すぎたことから
不幸にも熱烈なファンの望む趣向とは半キャラどころか半画面ぶんぐらいズレてしまったが、
「ゲームのメディアミックス」というもの歴史を考える上では、
非常に重要な存在であると思う。


実際、イースの思い出と聞いて真っ先に浮かんだのがこの2作品だし。
単に私が少数派なだけかもしれないが。

しかしまぁ、それもこれも、
『イース』という、絶妙な完成度と想像の余地とのバランスを持った名作があってこそである。
WizやDQやFFだけでは、こうは行かなかったのではないかと思う。

そうそう、あと飛火野耀氏によるノベライズ版なんてのもあった。
これは、1巻が角川文庫、2巻が角川スニーカー文庫からの刊行。
すなわちこれもまた、角川文庫がゲーム・ファンタジー系のノベルをスニーカー文庫として独立させるという、
重大な節目に立ち会った作品である。

が……



 アドルは、これまで自分は男と女のことについて少しは知っているつもりでいた。旅の途中で、自分から望んでではなかったが、道連れになった男に誘われて、とある娼家に泊ったこともあった。そしてまた、通りすがりのある村で、農家の少女と一夜かぎりの愛を交わしたこともあった。しかし、今にして思えば、自分は全く何も知らない子供同然だったことがよくわかった。



その後の“爽やかな好青年”としてのアドル・クリスティン像をぶち壊し、
旅の冒険者らしいリアルな側面を描写してしまったために黒歴史入り。
ちなみにこれは、魔女の老婆の幻術に惑わされて……というシーンなのだが、
さすがに童貞喪失がそれでは可哀想だと思ったのだろうか。



なお、1995年頃から連絡の取れない状態が続いている。以下は「イース小説」(iアプリ)の著者紹介から抜粋。

本著作物、小説「イース」(角川文庫刊)の著者であります飛火野耀先生とは現在連絡が取れない状況にあります。ご本人様やご親族の方、もしくは近況をご存知の方がいらっしゃいましたら、以下のメールアドレスまでご連絡ください。


しかも作者ご本人も行方不明だそうで、非常に心配である。



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この記事へのコメント
PC雑誌はコンプ派でしたので、3つとも良く憶えております、ハイ。
Ysに限らず、角川のメディアミックス史を語る上でも、欠かせない要素だと言えます。

>単に私が少数派なだけかもしれないが。
コンプ派だったら、誰もが鮮明に憶えているのではないでしょうか。
もしそうでないとしたら、私も少数派ですね(w

>飛火野耀氏
そう言えば、ノベライズされた当時から、謎多き人物として扱われていましたが、随分と心配な事になっていますね。

ところで、『Ys5』もノベライズされているのですが、これは元々の設定をノベライズしたもので、実際に出たゲームとエライ食い違いが起きた代物で、作者が後書きでその戸惑いを吐露するほどだったのを憶えています。
このときの作者の気持ちたるや、如何許りかと。
Posted by 市藤勇美 at 2009年09月05日 04:08
ロードス島戦記のリプレイでTRPGブームを広めたのもコンプティークですし、
あと何気に、一時期乱立したエロゲ専門誌のルーツでもあったりして、
いま思えば凄い雑誌でしたね。
Posted by 白川嘘一郎白川嘘一郎 at 2009年09月06日 00:17