れとろげ。

ファンタジー風創作小説『ようこそ麒麟亭へ』

2009年06月22日

ゲーマーたちへの愛と業(前編)

今月、ゲーム業界を騒がせた話題と言えばやはり、
E3で発売された「PSP go」

まずはその外観が目を惹くが、この機種の本質は、
従来のようなディスクやカートリッジを完全に廃し、
データのダウンロードのみに特化したことにある。

このため、ゲーマーや小売店の間では、「SCEIは小売店を切り捨てるつもりなのか」
と危惧する声が上がっている。




(画像は非合法ファミコン互換機FC MOBILE)

■「浅く長く」が可能なダウンロード販売


ま、確かにその気になれば簡単に両立できるものを、あえて一方だけ切り捨てるのだから
コストや小型化のためと言うより、新時代への意思表示と見るのが正解だろう。
これに対して不安や抵抗を感じるのは当然なのだが、
一方で期待できることもあると思う。


現状では、発売から2、3年以上たったマイナーな佳作ゲームは、
小売店をあちこち探し回らなければ手に入れることは難しい。

しかし在庫を抱える必要のないダウンロード販売であれば、
そういったゲームソフトも小リスクで販売することができ、
ビジネス用語で言うところのロングテールな商法ができる。

そのため、これまでなら評価されにくかったマイナータイトルが着目される機会が増えるのではないかということ。
そしてまた逆に、パッケージや初回特典でごまかして売り逃げするような手法が通用しなくなるかもしれない。

もっともそのためには、ファミコンディスクの書き換えを17年間続けた任天堂なみのサービスの維持が前提だし、
少なくともあと数年のうちにダウンロード販売に完全移行することはないだろうけど。



■本当の狙いは中古対策?


今回の「PSP go」をめぐる業界の動きは、
ちょうど今より10年ほど前に起こった「ゲームソフトの中古販売問題」を思い出させる。

コンテンツのダウンロード販売というもののもう一つの側面が、
それが事実上の中古規制であるということで、小売店が真に危惧する点である。

10年前にも、大手のゲームソフトメーカーが、この問題を解決すべく行動を起こした。
作る側にしてみれば、中古でゲームソフトを買われても1円も入ってこないばかりか、新品を販売する機会の損失となる。

一方、消費者側にしてみれば、中身もわからないまま5千円から1万円もするような高額商品を買うのだから、
「期待と違った」「値段分楽しめなかった」という場合は、多少のリターンを……というのも、まぁ無理はない。

そこをどのように折り合いを付けるか、というのが課題だったわけだが、
ところがここで大手ゲームメーカーは、
「ゲームソフトは映画的著作物だから頒布権がある、よって中古販売は禁止」という
明らかに無理のある屁理屈だけを掲げて、多大な金と時間をつぎ込んで裁判を起こすという、およそ考えうる限り最悪の愚策に出たのである。

この段階で、デジタル時代に即した著作権法の改訂に向けた動きを起こすか、
あるいは小売店との取り決めによって発売後何ヶ月かは中古販売禁止とか、
中古販売で得た利益の何%かをメーカーに還元するとか、
レンタルCDと同じ様に共存共栄の道を探るべきだった。

(頒布権:映画館に配給し、入館料を得るという独自の流通形態を持つ映画に関して特別に認められた権利。譲渡や貸与を禁ずる非常に強力な権利である)


2002年4月に最高裁は、ゲームソフトが映画的著作物であるとは認めたものの、
その流通形態ゆえに頒布権については認めず、中古売買は法的に許容されることになった。まぁ妥当な結論だろう。
(中古販売に全く問題がないと言っているわけではない。頒布権などというものを盾にしたのが無謀なのである)

結果、この裁判はゲーム業界にとって何のプラスももたらさず、
小売店・ユーザーとの間に溝を作るだけという結果に終わってしまった。

係争期間中、中古を取り扱わなかったために閉店・撤退を余儀なくされた小売店やチェーン店も多く、
因果関係は不明なものの、時系列だけ見れば、「近所にゲームショップがなくなったことがゲーム人口の減少の一端を担っている」という仮定すら成り立つのだ。



IT-PLUS:ソフト会社と小売店の険悪な関係 日本のゲーム産業の課題(2)
http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMITew000016012009&cp=1
 
しかし、これによってゲーム会社と小売店との関係は決定的に悪化し、ゲーム会社は小売店のマージンをできるだけ減らそうとする戦略を採った。その結果、ゲーム専門店では新品ソフトを売る動機が相対的に低下し、新品の販売本数を減らして利益が大きい中古ソフトをさらに売るというビジネス構造が進んだ。2000年代に入っての日本の市場規模の縮小には、この状況が一役買っている。




今や出版界までもが不況で、ブックオフのような古書店すら目を付けられる状態で、
さらに開発に金のかかるゲーム製作者にとっては、そりゃ新品で売れたほうがありがたいに決まってる。

けれど、全てが新品で流通するのが当然、という考え方は傲慢ではないのか。

良作ゲームについては、次回作への投資のつもりで新品で買ってくれ! とは思うけど、
それは法律やなんかでユーザーに強制するようなものではないと思うなぁ。

小遣いでゲームを買ってる小中学生ならともかく、
それなりにお金に余裕のある人はできるだけ新品でゲームを買ってやってちょうだいね、とお願いしつつ、次回に続く。

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この記事へのコメント
ダウンロード販売の場合、バグが出た場合もパッチをユーザーにダウンロードさせれば良い事もあって、メーカー側にとっては利点がありますね。
ユーザーとしても、初期不良の見つかったゲームソフトを送り返す面倒からは解放される事が期待できそうです。

>ちょうど今より10年ほど前に起こった「ゲームソフトの中古販売問題」を思い出させる。
私も、ダウンロード販売の事を知って、最初に思い出したのはこの件です。
この件以降、ゲーム業界は自らの足を食い散らかすタコのような状態になっているような気がします。
Posted by 市藤勇美 at 2009年06月22日 23:44
>「ゲームソフトは映画的著作物だから頒布権がある、よって中古販売は禁止」

この訴訟が起こった当時はちょうど次世代機が出回り始め、『家庭用ゲーム機で映画の
ような美しい映像や迫力ある演出ができる』ということで、いろんなゲーム会社がこぞって
映画的な、ゲームを作る方向へ向き始めた時代でしたね。
「映画的なゲーム」を作っているはずが、「映画を作っている!(キリッ)」と考えるように
なって、それが「頒布権」を主張するに至ったのでは…?と、邪推したり。

この頃、ゲーム会社に就職したいと考え色んな会社に行きましたが、どこの会社でも
 『映画も見てないくせにゲームなんか作れるか!』
と罵られ、諦めました。まぁ映画に限らずあらゆる影響や感性は必要だと思うので、
正しいご意見なのですが。

そういえば本当に映画を作りたかった某ゲームクリエイターが、会社とか巻き込んで
作った映画が大コ(略)

だらだらとした長文、失礼しました。
Posted by マシンオー at 2009年06月23日 01:29
新品が店頭に無くて買えない物だけ中古で買うというスタイルが定着すれば、新品と中古の共存は可能だと思います。
しかしブックオフの様な新古書店が繁盛する事によって出版業界の経営が圧迫されているという話を聞きますと、道は遠いのかなと思います。
Posted by JJ at 2009年06月23日 06:59
>市藤さん
当分はUMDと併用で行く、と言ってるので、
実際にはまだまだ難しそうですけどね……。


>マシンオーさん
ゲーム業界は10年ほどで急激に成長した業界で、ちょうどあのころのメーカーは
「ゲーム製作集団」から「メジャー企業」へと変革しはじめ、
法務や経理など会社としての体裁を整備する必要に迫られた時期でした。

そのため外部の専門家を呼び込まねばならず、ゲームを知らない法律ヤ●ザや企業ゴロみたいな手合いに、いいように言いくるめられてしまったんじゃないかと想像しています。
この裁判で唯一利益を得たのは、弁護士やらナントカ顧問、みたいな人でしょうし。

映画とかは確かに勉強になるんですが、あまりそれにこだわりすぎると新しい発想が出てこなくなるので……まぁ、何でもそうなんですけど。


>JJさん
単価の高いゲームやCDならともかく、書籍に関しては、
古本屋がなくなったらその分みんな新刊を買うのか、と言われると違う気がするんですけどねぇ。
出版不況は別の要因(ケータイやネットの普及)ではないかと。
ブックオフだけが元凶だとすると、
ジャンプみたいな週刊雑誌の部数まで減少していることの説明がつきませんし。
Posted by 白川嘘一郎白川嘘一郎 at 2009年06月23日 10:48
 
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