れとろげ。

ファンタジー風創作小説『ようこそ麒麟亭へ』

2008年12月04日

加納朋子 『コッペリア』 (講談社文庫)

漫画や映画ばかりではなく、たまには小説の紹介も。


加納朋子は、いわゆる「日常の謎」系ミステリに分類される女流作家。
「日常の謎」とは、血なまぐさい殺人事件だけがミステリではなく、ふとした日常生活の中でも人の心は無数の謎を作り出すのだ、というテーゼのもとに紡がれるミステリである。

このジャンルの代表的な作家としては何と言っても北村薫が挙げられるが、
加納朋子もまた北村薫の影響を強く受けている。
しかしながら北村薫よりも叙情的な面が色濃く見られ、どことなくファンタジックで柔らかい雰囲気の文を書く作家だ。

タイトルにある『コッペリア』とはバレエの演目のひとつ。
からくり仕掛けの自動人形コッペリアに恋をしてしまった青年の喜劇。

ピュグマリオンの神話やホフマンの『砂男』の物語を下敷きにしていることが示すように、
古来より人形という存在には、人を魅了する妖しい魅力がある。


――どこから話そうか。
ひねくれ歪んだ人間達の、もつれねじれた物語だ。
本当の主人公は、人形なのだけれど。


この物語は、天才とうたわれる人形師、如月まゆらの生み出したいくつかの人形と――、


 誰かの暗い鬱憤晴らしの結果、片目をえぐられたり、脚を切り取られたり、そ
れでも死にきれなかった犬や猫がいるとする。すると必ず、その可哀想な動物を
引き取って慈しみましょうと申し出る人が現れる。なかなかできないことだ。尊
敬すべき人種だ。どうせ飼うならそんなボロボロの動物ではなく、真っさらで可
愛い仔犬や仔猫のほうがいいに決まっているのだから。
 僕の養父母は二人とも、そうした慈愛に溢れた高潔な人間だ。だから僕は彼ら
を尊敬している……心から。


人として、愛情を感じ取る感覚が欠落しており、人形に心奪われる青年、了と――、


 私は昔から虚栄心が強く、目立つことが大好きだった。だから女優という仕事
は私の自尊心をいたく満足させてくれた。まったく別な人格を演じるということ
も、面白くてならない。舞台の上なら清らかな聖女にも横暴な女王様にもなれる。
 とは言え、良いことばかりでは決してない。
「手っ取り早く貧乏になりたかったら芝居をやれ」とは、仲間うちでささやかれ
ている笑えないジョークである。


その人形と瓜二つの美貌を持つ、小さな劇団の舞台女優、聖との物語である。

ミステリの手法としては、
複数の人物の視点と時系列が巧みに織り交ぜられる叙述トリック型。

北村薫のミステリは、「そのような行いをする動機があった人間は誰か」や「その人物はなぜそのような行動を取ったのか」という個の視点がカギとなることが多いが、
加納朋子の場合は、人物同士の隠れた関係性を解き明かすことが、事件の核心に繋がるケースが多い。

(以前、「男性はパーソナリティに萌え、女性はシチュエーションに萌える」
 という仮説を立てたことがあるが、あながち外れてもいないと思う。)

この『コッペリア』もまた、人形に関わる者たちの数奇な結びつきが
ミステリという視点からも、奇妙な恋物語としても、大きな意味を持ってくる。。

本格ミステリでは味わえない、切ない謎と、優しい結末を、あなたに。





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コッペリア 加納朋子【粋な提案】at 2009年08月23日 04:34
この記事へのコメント
こんばんは。
トラックバックさせていただきました。
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お気軽にどうぞ。
Posted by 藍色 at 2009年08月23日 04:46
 
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